技術とか戦略とか

SIerで証券レガシーシステムを8年いじってからSESに転職した業務系エンジニアによる技術ブログ。

IT業界におけるメンタルヘルス対策

IT業界は、メンタルヘルス不調が出やすい業界であると言われます。
メンタルヘルス不調者が出てしまうと事業に悪影響がありますし、何より心情的に心が痛むものがあります。
 
この記事では、IT業界の特殊な背景と、IT業界でのメンタルヘルス対策について、簡単に書いていきたいと思います。
デリケートな話題ですので、特定の人のメンタルヘルスを悪化させる可能性がある内容は極力控え、客観的な記述を心がけます。
 
1.IT業界でのメンタルヘルス不調の多さ
2020年に「過去1年間におけるメンタルヘルス不調による連続1か月以上の休業をした労働者及び退職者割合(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&query=%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E4%B8%8D%E8%AA%BF&sort=year_month%20desc&layout=dataset&stat_infid=000032177262&metadata=1&data=1)」という政府統計が取られました。
この統計によると、1年間でメンタルヘルス不調により1か月以上休業する社員の割合が、インターネット附随サービス業は1.5%、通信業は1.1%、情報サービス業は0.9%あるとされています。100人いれば1人はメンタルヘルス不調により長期休暇を取っているという計算です。
(職場によってはこれより高いこともありますし、長期休暇を取らないまでもメンタルヘルスが不調のまま踏ん張っている社員がいることも予想されます)
これは全業界で1位・2位・3位であり、平均の0.4%と比べるとその高さがわかると思います。
 
2.IT業界にメンタルヘルス不調が多い理由
IT業界に限らず、一般的に「仕事の責任が重くプレッシャーを感じる」「仕事の裁量が少なく自分の仕事を自分でコントロールできない」といった環境では、メンタルヘルス不調が発生しやすくなります。
勿論、各種ハラスメントが横行している職場の場合は、それはメンタルヘルス不調を引き起こす主因になります。
そして、IT業界特有の理由としては、以下のようなものが考えられます。
 
■不規則な勤務が多い仕事である
 IT業界では、長時間残業や深夜作業・休日作業を余儀なくされることがあります。
 開発では納期前に「デスマーチ」と呼ばれる追い込みを強いられることがあります。
 36協定の範囲内でも、1ヶ月100時間弱の長時間残業を強いられる可能性があります。
 また、保守・運用では、システムの都合に合わせた勤務が必要になることがあります。
 システムがサービス時間外となる時間帯でないとできない作業があるためです。
 そのため、深夜作業や休日作業が必要になることがあります。
 更に、緊急のシステム障害の場合は、そのような勤務が予定外で発生します。
 このような不規則な勤務は、プライベートの充実や睡眠時間の確保を難しくさせます。
 当然、メンタルヘルス不調を抱えるリスクは高まります。
 
■孤独感を感じやすい仕事である
 IT業界はPCの前に座っていることが多い仕事であり、直接会話する機会は少ないです。
 また、IT業界に多い客先常駐という形態は、孤独感を強める要素になり得ます。
 客先常駐では自社の社員が居ない・少ないという環境で仕事をするため、
 良く知っている人とのつながりを感じながら仕事をするという形にはなりにくいです。
 コロナ禍でIT業界に浸透したテレワークも、孤独感を強める要素になり得ます。
 テレワークでは非公式のコミュニケーションが発生しにくいため、
 人となりを知りにくくなったり、どう思われているのかわかりにくくなったりします。
 人との繋がりを感じにくく孤独感があるというのは、メンタルヘルスにマイナスです。
 
■褒められることが少ない仕事である
 特に保守・運用に言えることですが、この仕事は縁の下の力持ちな面があります。
 また、システムは動いて当たり前と思われやすいです。
 そのため、システム稼働を維持していたとしても、褒められることは少ないです。
 そして、システム障害を発生させてしまうと怒られてしまいます。
 仕事の中で自己肯定感を感じることが少ないので、メンタルに厳しい仕事と言えます。
 
■変化が激しい業界である
 IT業界で使われる技術は変化が早く、次々と新しい技術が生まれます。
 また、若年者は知識の習得が早い上、教育機関で新技術を学んでくることもあります。
 そのため、現場で最前線に立ち続けるには勉強の継続が欠かせません。
 このことは余暇の時間を減らすことになりますし、プレッシャーにも悩まされます。
 出世やステップアップにより、現場仕事から管理側の仕事へ移行することもあります。
 この場合は、技術の変化に悩まされることは少なくなります。
 しかし、仕事内容が変わることで、人によってはやりがいを失うことがあります。
 
メンタルヘルス不調を抱えやすい社員が多い
 IT業界の技術者には、高い論理的思考力が求められます。
 また、ある種の発達障害の人は論理的思考力が比較的高いとされています。
 そのため、発達障害の人にお勧めの職業として技術者が挙げられることが多いです。
 (実際、従事者も比較的多いと思います)
 しかし、発達障害の人は人とのコミュニケーションに難を抱えることが多いです。
 そのことにより、メンタルヘルス不調を併発することが少なくありません。
 コミュニケーションが少ないIT業界といえども、チームワークは必要です。
 職場に発達障害への理解が無い場合は、メンタルヘルス上リスクとなります。
 発達障害でないとしても、メンタルヘルス上のリスクが高い性格が求められます。
 コンピューターを動かす上では論理性が求められ、曖昧さは許されません。
 そのため、完璧主義な性格が求められる面が出てきます。
 しかし、完璧主義は、メンタルヘルス不調のリスクが高い性格でもあります。
 
3.メンタルヘルス不調の影響
メンタルヘルス不調になった社員は、パフォーマンスが悪くなります。
そして、最終的には休職や退職をせざるを得ない状態になります。
(休職・退職があまりにも多い場合、悪評が立ち採用活動が困難になることがあり、最悪の場合は健康被害のために訴訟に発展することもあります)
 
具体的には、メンタルヘルス不調になった社員には以下の症状が発生します。
 
■前兆となる症状
・勤怠が乱れ始める(遅刻や突休をするようになる)
・声のトーンが暗くなる、ネガティブな発言が増える等、明らかに元気がなくなる
・頭痛が増える、風邪を引きやすくなる等、体調不良が増える
 
■IT業界で良く目にする病名
メンタルヘルス不調の病院での診断名は以下の通りです。

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なお、メンタルヘルス不調の症状により通常の就労が困難になった場合、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けるケースもあります。
日常生活を自力で送れるが就労が困難、という程度の場合は、精神障害2~3級となります。
 
メンタルヘルス不調の治療と経過
メンタルヘルス不調を病院で治療する場合、治療で即効性が高いのは投薬です。
しかし、投薬治療には副作用もあり、眠気といった仕事のパフォーマンスを落とす副作業もあります。
また、病院から診断書をもらい休職を余儀なくされるような強い症状が現れた場合、休職期間を終えて復帰しても再び休職してしまう可能性が少なくありません。復帰を急ぐ場合は特にその傾向が強くなります。
仕事の中で強いストレスを感じる経験をしてしまっており、仕事をする中でその経験が想起されるので、周囲の理解とサポートがなければ復帰は難しいものになります。
 
4.メンタルヘルス不調の対策
一般的に、メンタルヘルス不調への対策は以下のようなものになります。
 
■セルフケアの推進
研修を通して、各々の社員に以下の知識を身につけさせることで、メンタルケアを各々の社員自身で行うことができるようにし、メンタルヘルス不調の減少に期待できます。
研修で伝える内容は、厚生労働省医療機関等の信頼できる機関が発信する情報に準ずることが望ましいです。
・ストレスやメンタルヘルスに関する正しい知識
・ストレスマネジメントやメンタルケアの方法
 
■職場でのメンタルヘルス対策の実施
メンタルヘルス不調を招くような要素を取り除いたり緩和したりする対策を職場で行うことも重要です。
例えば、深夜の労働時間が長くなりすぎないように勤務時間をシフトするのは良い対策です。
ただし、良かれと思った対策に効果が無い/逆効果となることも良くあるので注意が必要です。少なくとも、他人の気持ちがわかることを前提とした対策は厳禁です。見た目や口先だけで他人の内面を知ることは極めて困難ですし、本当にメンタルヘルス不調の場合は自尊感情が損なわれているケースが多くデリケートな対応が必要だからです。
コミュニケーションを活発にしたり本音を聞き出したりするためにメンタルヘルス不調対策のつもりで飲み会に誘う、というのは日本の職場では見られがちですが、飲み会でストレスを感じるやりとりがされたり睡眠時間が削られたりして逆効果になる可能性があります。
職場で適切な対策を行うためには、上長にメンタルヘルスに関する正しい知識が必要です。
 
■会社全体でのメンタルヘルス対策の実施
メンタルヘルスは敏感で難しい分野ですので、職場での自助努力だけではなく、外部の専門家や社内の専門担当者、例えば、産業医や衛生管理者、保健師、人事・労務担当者が支援することも重要です。
全社的な施策や、長時間労働者へのヒアリング、職場でのメンタルケアのサポート、外部機関との連携等は、このようなポジションの人物でないと実施が難しいです。
 
■社外機関を用いたメンタルヘルス対策の実施
厚生労働省中央労働災害防止協会、商工会議所、健康保険組合といった社外の機関もメンタルヘルス対策を推進しています。
具体的には、産業保健情報の提供、健康相談窓口の開設、アドバイザーや講師の個別訪問、といった活動に取り組んでいます。
社内だけではリソースやノウハウが足りない場合は、こういった社外機関によるサポートを得ることも重要でしょう。
下記のような助成金制度を利用することもできます。

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