技術とか戦略とか

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ゲーム理論:物事をゲームとして正しく認識するための方針

ゲーム理論は話だけ聞くと簡単そうに見えますが、実際に適用しようとすると色々な壁にぶつかります。
一番最初に必ずぶつかる壁として、適用対象をゲームとして正しく認識することが困難という壁があります。
この認識が誤っていると、ゲーム木や利得表を正しく書くこともできなくなり、そこから導き出される分析結果も誤ったものになってしまいます。
 
今回の記事では、この問題に対する対応方針について、簡単に書いていきます。
 
ゲーム理論のおさらい】
ゲーム理論については、下記の記事に簡単に書いています。
情報処理技術者試験対策「ゲーム理論」 - 技術とか戦略とか
 
ゲーム理論の3つの前提条件】
ゲーム理論で分析を行うためには、以下の3つの前提条件が必要になります。
「適用対象をゲームとして正しく認識する」を具体的に言うと、「以下の3つの前提条件を正しく設定する」ということになります。
 

  • 利害関係のあるプレイヤー
    ゲーム理論とは、自分が選んだ選択肢と相手が選んだ選択肢の組み合わせで結果がどのように分岐するのかを分析する理論である。
    そのため、まずは結果に影響を与えるような利害関係のあるプレイヤーを洗い出す必要がある。
  • 各プレイヤーが持つ選択肢
    前述の通り、ゲーム理論とは選択肢を選んだ結果を分析する理論であるため、その「選択肢」を洗い出す必要もある。
  • 選択肢を選んだ結果得られる利得
    ゲーム理論における「結果」は「利得」と呼ばれているが、その利得の大小も定義する必要もある。
     

【前提条件を設定する難しさ】
上記の前提条件は、ゲーム理論の例題では自明であり、スポーツ・ボードゲームコンピューターゲーム等でもルールとして自明に近い形で提示されています。
しかし、現実世界の問題では前提条件は自分で設定する必要があり、スポーツ・ボードゲームコンピューターゲーム等に対してゲーム理論で厳密に分析する場合にも前提条件を疑う必要があります。
 
これらの前提条件を設定するのは意外と難しいです。
以下で囚人のジレンマの例を挙げながら説明します。
囚人のジレンマについては、はてなキーワードの説明がわかりやすかったので、知らない方は文字のリンクをクリックしてみて下さい)
 

  • 利害関係のあるプレイヤーの洗い出し
    一見利害関係がありそうなプレイヤーは実は利害関係がなかったり、逆に意外なプレイヤーと利害関係があったりします。
    囚人のジレンマの例では、相手の囚人の行動が自分の量刑に影響しないのであれば、相手の囚人をプレイヤーとして仮定するのは不適です。
    また、取り調べ担当官の気分で量刑が変わるのであれば、取り調べ担当官をプレイヤーとして見立てるべきです。
  • 各プレイヤーが持つ選択肢
    発想を膨らませると、選択肢も色々なものが想定できます。
    囚人のジレンマの例では「黙秘」「自白」のみが選択肢として与えられていますが、囚人の能力や状況次第では「虚偽の自白」「賄賂支払」「脱走」といった選択肢も想定する必要があります。
  • 選択肢を選んだ結果得られる利得
    各プレイヤーの価値観や目的、心理的バイアス等によって、実際に感じる利得は変化します。
    囚人のジレンマにおける禁固刑は生活に困っている人にとってはプラスにすらなり得ますし、正義を貫くことに重きを置く人にとっては死刑すら正義の殉死として肯定的に捉えるかもしれません。
    また、外部要因によって利得が変化することもあります。
    囚人のジレンマの経済学的な解答の一つとして、「囚人同士でお互いに黙秘する協定を結び、破った場合は罰則を加える」という解答がありますが、これは黙秘した場合の利得を無条件に低くすることで黙秘を選ぶメリットを無くすという解答です。
     

【前提条件を正しく設定するためのポイント】
以下では、前提条件を正しく設定する上で意識するべきポイントをかいつまんで挙げます。
 

  • 利害関係のあるプレイヤーの洗い出し
    目の前のプレイヤーとは本当に利害関係があるのか。
    パートナーとなり得るプレイヤーにはどのようなプレイヤーがいるのか。
    未知の競合相手が隠れていないか。
  • 各プレイヤーが持つ選択肢
    各々のプレイヤーはどのような能力を持っているのか。
    各々のプレイヤーが置かれた状況はどうなのか。
    能力を伸ばしたり状況を変えることで選択肢を増やすことはできないか。
  • 選択肢を選んだ結果得られる利得
    各々のプレイヤーの価値観や目的は把握したか。
    心理的なバイアスは考慮したか。
    利得を変化させる外部要因は洗い出したか。