技術とか戦略とか

IT技術者が技術や戦略について書くブログです。

アンカリングを用いた交渉術

アンカリングとは、先に与えられる情報をベースに意思決定してしまうことを指す心理面の現象のことです。
この現象は交渉の場面で役に立ちます。
先に厳しめの要求を出すことで、その要求をベースに交渉を進めることができます。
厳しめの要求を出した後、相手に合わせて譲歩するのですが、厳しめの要求をベースに譲歩をすることができるので、こちらが飲めるギリギリのラインよりもこちらにとって有利なラインで交渉を成立させることができます。
 
技術職としては、工数の見積もりの場面で応用できます。
できることがわかりきっている案件であれば正直に見積もりを出せば良いのですが、不確実性がある案件ではある程度のリスクバッファが必要になります。
「不確実性コーン」と呼ばれる有名な研究成果があるのですが、最も初期の段階では見積もり工数に±400%のブレが発生します(以下のページの図がわかりやすいです)。
 
西尾泰和のScrapbox

https://scrapbox.io/nishio/%E4%B8%8D%E7%A2%BA%E5%AE%9F%E6%80%A7%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B3

 
そこで、リスクバッファを確保するために、交渉で工数が削られることを見越して多めの工数で見積もるということをします。
発注側が想定している工数から10倍も離れている場合は流石に「いやいやそれは…」という話になりますが、その場合はこちら側が立派なものを作ろうとしすぎていることが多いので、お互いに想定している要件を話した上で要件のすり合わせをするということになります。
 
なお、多めの工数を出す理由としては「楽をしたい」とか「儲けたい」とかが理由ではなくあくまでもリスクバッファの確保なので、作業者が開発期間の長さに安心して平時からリスクバッファを食いつぶすようなことがあってはなりません。
そのため、開発者には逆に厳しめのスケジュールを伝えて、スケジュールの交渉(調整)をしたりします。そうすることで、スケジュール的な余裕が生まれ、不測の事態が起きた時に取れる選択肢が広がります。