技術とか戦略とか

SIerで証券レガシーシステムを8年いじってからSESに転職した普通の文系SEによる技術ブログ。

ミニ四駆に見る初心者と上級者が共存できる競技デザイン

昔のブログに上げていた記事を掘り起こしました。
業務と関係のない記事で申し訳ありませんが、面白い話だとは思うので。
 
【概要】
競技玩具では、初心者と上級者の共存がしばしば課題となる。
この課題に対して、レギュレーション改定や高性能パーツ販売で敷居を下げつつ、改造の自由度をある程度確保し上達の楽しみを失わせない競技デザインとすることで、第3次ムーブメント(2012年~)の形成に成功したミニ四駆の例を挙げて説明する。
 
ミニ四駆とは】
ミニ四駆は自動車を模した1/32スケールのタミヤ社の玩具であり、電池とモーターを動力として走行する。
遠隔操作を行うことはできないが、壁で仕切ったコースを走らせることで周回することができる。
ミニ四駆の競技では3~5台が同時に走行し、既定の周回数を一番早く周回した者が勝者となる。
なお、壁を乗り越えてしまった場合(コースアウトした場合)は失格となる。
 
【背景】
ミニ四駆は、アニメ「爆走兄弟レッツ&ゴー」を用いたメディアミックス戦略により、当時の小学生を中心に人気を博し、第2次ブーム(1994年~)を迎えた。
しかし、このブームも、1999年頃には下火となり、新商品が発売されない冬の時代を迎えた。
下火となった後も一部の愛好家はミニ四駆で遊び続けたが、特殊な機材を用いて車体を大幅に作り変える改造(井桁や抵抗抜き等)が流行となり、0.1mm単位の調整も行われる等、競技内容は先鋭化していった。
更に、2004年にバンダイ社から類似玩具である「爆シード」が展開され、ミニ四駆に対する競合として立ちはだかった。
ミニ四駆は復興を目指し2006年に新商品を発売したが、先鋭化した競技内容への対応と、競合玩具との競争が課題となった。
 
【競技デザインの変更の成功】
まずは、高くなりすぎた敷居を下げる必要があった。
既存のミニ四駆のコースはコースアウトせずに走りきることが比較的容易であり、高いスピードを出すことが可能であった。
高いスピードを出すためには、とにかく軽量にマシンを作り上げ、走行抵抗を可能な限り少なくする必要がある。
前者はFRP(実車でも使われる軽量・高剛性の素材)で車体を形成する「井桁」と呼ばれるテクニックが、後者はギヤの当たり方や位置等を細かく調整する「抵抗抜き」と呼ばれるテクニックが必要となり、敷居を上げる主因となっていた。
そこで、タミヤ社はコースのアップダウンを激くし、スピードを出すとコースアウトするレイアウトとすることで、上級者のスピードの抑制を図った。
それと同時に、高出力モーター(ダッシュ系モーター)を解禁し、初心者のスピードアップを図った。
また、初心者向けに高性能なパーツ(宝箱セッティングを推奨するパーツ、マスダンパー、ローハイトタイヤ、ブレーキパーツ等)を販売し、説明書通りにパーツをつけるだけでもコースアウトを防げるようにし、更なるスピードアップを図った。
これらの施策により初心者と上級者の差を埋めることに成功し、大会の一次予選なら基本通りにパーツをつけるだけでも突破可能とまで言われるようになった。

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しかし、それと同時に、技術の上達による喜びを阻害していない。
改造にはある程度の自由度が確保されており、コースアウトを防ぐパーツ(提灯、ペラタイヤ、ホイールスタビ等)を自作することでより高い速度域で完走することができるようになり、また高出力モーターに頼らないスピードアップを図れることで加速力や燃費の向上を図ることができるようになる。
実際に、大会で優勝するマシンは、基本通りにパーツをつけるだけの範囲を超えた高度な改造が施されたマシンである。
このことにより、上級者の離反を防ぐだけでなく、初心者~中級者に技術の上達の喜びを与え、長期にわたってミニ四駆を楽しんでもらうことが可能となっている。
 
結果として、ミニ四駆は初心者から上級者まで心をつかむことに成功し、2012年には第3次ムーブメントと呼ばれる時代を迎えることになった。
 
【競合玩具の失敗】
それに対して、競合玩具の爆シードは、ミニ四駆の新商品が販売された2006年から勢いを失い、2008年には展開をストップすることとなった。
爆シードは、高度な改造である抵抗抜きを公式動画で推奨したかと思えば、優勝マシンを調べて高度な改造を軒並み禁止する等、技術に対する姿勢がちぐはぐな感があり、初心者と上級者が共存する競技デザインの構築に失敗していた。このことは、ミニ四駆に敗北した要因として決して小さくないだろう。
長い歴史を持ち潜在的なファンが多いミニ四駆の底力に敵わなかったという見方もあると思うが、1999年以降にミニ四駆を楽しんでいた層は一度爆シードに移行しており、2006年の時点では爆シードに先行者利益があったのだ。この時点で初心者と上級者が共存する競技デザインの構築に成功していれば、その先行者利益を長期に渡り維持することは可能だったかもしれない。